現代では、SNSやメッセージアプリで気軽に気持ちを伝えることができますが、昔の人々は、もっと丁寧に、時間をかけて「こころ」を伝えていました。
今回は、大正時代のラブレター文化をテーマに、今読んでもときめく恋文の書き方や例文、便箋・封筒の選び方までご紹介します。
大正時代のラブレター文化|奥ゆかしくも情熱的な想いの伝え方
大正時代は、近代化とともに女性たちが自由な表現を楽しみ始めた時代でもあります。
ラブレターには、その時代ならではの“奥ゆかしさ”と“情熱”が混ざり合い、今とは違った美しさがありました。
恋愛は「人目を忍ぶ」ものだった?
当時は、男女の交際があまり公にはできない時代。
電話やメールはもちろんありませんから、想いを伝える手段といえば、手紙が主流でした。
特に女学生たちは、友人同士の手紙のやりとりの中にも、淡い恋心や憧れを忍ばせていたことが多かったようです。
言葉遣いと文体の美しさ
大正時代のラブレターは、文体そのものが美しく、読み手の心をそっと包みこむような優しさがあります。
「お慕い申し上げます」や「ご機嫌よろしゅう」など、敬意と愛情を込めた表現がよく使われていました。
また、右から左へと縦書きで書かれる文字の流れにも、どこかしっとりとした情緒が漂います。
ラブレター例文|シチュエーション別に“今でも使える”レトロ表現
ここでは、大正時代を感じさせるラブレターの文例を、シチュエーションごとにご紹介します。
どれも、少しアレンジすれば現代でも使える“レトロかわいい”表現です。
初恋のときめきを綴った、女学生風ラブレター
お顔を拝したあの日より、私のこころはそわそわと落ちつきませぬ。
授業中もつい、あなた様の横顔ばかりを思い出してしまいます。
わたくしのこの思いが、どうかあなた様に届きますように。
少し大人びた、文学的で上品な恋文
秋の風が心地よくなるこの頃、あなた様のことをふと想い出すたび、胸の奥があたたかくなります。
手帳の片隅に書いたお名前を見つめるだけで、日々がやわらかく色づいてゆくのです。
この想いを、どうか笑わずに受け取っていただければ幸いに存じます。
プロポーズ風の一通|“そっと将来を想う”恋文に
長らくこの胸に灯り続けております思いを、ようやく筆に託す覚悟ができました。
あなた様のおそばにおりますと、時の流れがやさしくなるのを感じます。
もし、これからの人生を誰かと歩むことが許されるならば、それは、あなた様とであればと――
そのように願う日々でございます。
封筒・便箋・切手にも“ときめき”を

手紙の魅力は、文章だけではありません。
封筒の色や切手の柄にも、書き手のセンスや思いがにじみます。大正風の手紙には、そんな細部へのこだわりも似合います。
大正時代の封筒や便箋デザインって?
当時は、繊細な花柄やレース模様、水彩画のような色合いの便箋が好まれていました。
女学生たちは、友人との文通のためにお気に入りの便箋セットを集めたり、香り付きの紙を使ったりしていたとか。
今なら、レトロな文具店やオンラインショップでも、当時を彷彿とさせるデザインが見つかります。
切手も手紙の一部|レトロな柄の選び方
切手はただの料金証ではなく、手紙の表情のひとつ。
大正時代には、桜や菊の紋章があしらわれた格式高い切手や、動植物をモチーフにしたかわいらしいものも使われていました。
現代でも、記念切手や復刻版を選ぶことで、ぐっと雰囲気が出せます。
実際にあったラブレター|文学作品や史実からの一節を紹介
大正時代のラブレターには、今ではかえって新鮮に感じられる「奥ゆかしい熱情」があります。
ここでは、実在する詩や手紙から、20代~30代の女性が「使ってみたい」と感じる恋文表現を厳選してご紹介します。
それぞれに「現代風アレンジ」も添えて、日常やSNSでも活かせるヒントにしてみてください。
竹久夢二の詩より|遠くから想うやさしさ
出典:竹久夢二 詩集より
あなたのことを思ふたびに、月がやさしく微笑むような気がいたします。
【現代風にするなら…】
あなたを想ってると、夜空の月さえ微笑んでくれてる気がするの。
野上弥生子の手紙より|何でもない日に会いたい
出典:野上弥生子 書簡・日記より
あなたの声を聞きたくて、何もないのに便りを書いてしまいました。ごめんなさい。でも、それほどに恋しいのです。
【現代風にするなら…】
ただ声が聞きたくてLINEしちゃった。ごめんね。でも、それくらいあなたに会いたかったの。
宮沢賢治の草稿より|言えないけれど、伝えたい
出典:宮沢賢治 未送信草稿メモより
わたしは、あなた様が話しかけてくださるだけで、息をのむほど嬉しく、声が出なくなるのです。
【現代風にするなら…】
話しかけられただけで、心臓がぎゅってなるの。全然うまく返せなくて、いつも後悔してるんだけどね。
女学生の投稿文通より|覚悟のこもった一通
出典:『少女の友』(大正11年)読者投稿より
わたくしは、先生の笑顔を思い出しながら、何度も何度もこの手紙を書いては破り、書いてはためらいました。
この一通に、すべてを込めとうございます。
【現代風にするなら…】
書いては消して、また書いて…このメッセージに全部の想いを込めたよ。
まとめ|今こそ、“こころを綴る”時間を楽しんでみては?
大正時代のラブレターには、日々の暮らしでは見過ごしてしまうような「こころのひだ」をすくい上げる力があります。
今だからこそ、手紙で想いを伝えてみるのも、贈りもののような時間になるかもしれません。
まずはお気に入りの便箋を選んで、ひとつの言葉から書き始めてみてくださいね。